第306章

「これを、君に」

 相手はそれ以上何も言わず、ただその花束を前田南の胸元に押し付けた。

 前田南は一瞬呆気にとられ、反射的に花を受け取ってしまう。

 事態を飲み込めたのは、一拍置いてからのことだった。彼女は困惑した表情で顔を上げる。

「大塚社長、これは?」

 すると相手は、真剣な面持ちで説明を始めた。

「不躾なのは承知の上だ。だが昨晩帰ってからずっと考えた末、やはり私の気持ちを先に伝えておくべきだという結論に至ってね」

「君を口説きたいと思っている。私にチャンスをくれないか」

 その言葉が出た瞬間、前田南は衝撃のあまり、抱えていた花束を腕の中から取り落としてしまった。

「大...

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